東京高等裁判所 平成8年(行ケ)219号 判決 1998年12月16日
神奈川県川崎市幸区堀川町72番地
原告
株式会社東芝
代表者代表取締役
西室泰三
訴訟代理人弁理士
竹花喜久男
同
外川英明
同
井上正則
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 伊佐山建志
指定代理人
内藤照雄
同
齋藤操
同
井上雅夫
同
小林和男
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
1 原告
特許庁が、平成7年審判第2583号事件について、平成8年7月3日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和61年3月31日、名称を「携帯可能記録媒体の読取り/書込み装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(特願昭61-71064号)が、平成7年1月17日に拒絶査定を受けたので、同年2月16日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成7年審判第2583号事件として審理したうえ、平成8年7月3日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年9月2日、原告に送達された。
2 本願発明の要旨
携帯可能記録媒体制御用の外部制御装置に接続されるとともに携帯可能媒体の装着部およびこの媒体装着部に装着された携帯可能記録媒体の外部端子に接続されるコンタクト部を備えた携帯可能記録媒体の読取り/書込み装置において、
携帯可能記録媒体が前記媒体装着部の所定の位置に装着されたことを検出し前記外部装置に検出信号を出力する検出手段と、
携帯可能記録媒体に供給される電源電圧を発生する電圧発生手段と、
前記コンタクト部を介して携帯可能記録媒体に供給される動作クロックを発生するクロック発生手段と、
前記検出手段の出力信号に応答して外部制御装置から出力される信号に基づいて作動し前記電圧発生手段にて発生された電源電圧を携帯可能記録媒体に供給する第1の制御手段と、
この第1の制御手段により電源電圧を携帯可能記録媒体に供給した後に外部制御装置から出力される信号により制御され前記電源電圧の携帯可能記録媒体への供給に続いて前記クロック発生手段により発生されたクロックを前記携帯可能記録媒体へ供給する第2の制御手段と、
この第2の制御手段によるクロックの供給開始の後に前記携帯可能記録媒体をリセットするリセット信号を出力するリセット信号出力手段と、
前記電圧発生手段にて発生されて携帯可能記録媒体に供給されている電源電圧を監視する監視手段と、
この監視手段の監視出力によりリセット信号出力手段から出力されるリセット信号のICカードへの供給を制御する第3の制御手段と
を有することを特徴とする携帯可能記録媒体の読取り/書
込み装置。
3 審決の理由の要点
審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明が、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭61-20185号公報(以下「引用例」といい、そこに記載された発明を「引用例発明」という。)に記載された事項及び本願出願前に周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法29条2項の規定によりを受けることができないものとした。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中、本願発明の要旨の認定並びに本願発明と引用例発明との相違点a、bの認定及びこれについての判断は認める。引用例記載事項の認定、本願発明と引用例発明との一致点の認定並びに審判請求人(注、原告)の主張に対する判断(審決書8頁下から5行~10頁19行)は争う。
審決は、本願発明の技術事項を誤認し、さらに引用例発明の認定を誤って本願発明と引用例発明との一致点の認定を誤った結果、本願発明が引用例記載事項及び周知事項から容易に発明をすることができたものとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。
1 本願発明の技術事項の誤認
審決は、「本願発明のものは、外部制御装置(端末装置)から独立した携帯可能記録媒体の読取り/書込み装置である旨」(審決書10頁8~10行)の審判請求人(注、原告)の主張に対し、「特許請求の範囲に記載の本願発明の読取り/書込み装置は外部制御装置に『接続される』と記載されているだけであって、外部制御装置と読取り/書込み装置が独立した装置であることが必須の要件にはなっていないので、この点に関する審判請求人の主張は採用できない。(なお、外部制御装置(端末装置)と読取り/書込み装置を独立した装置とするか一体とした装置とするかは単なる設計事項にすぎないものと認める。)」(同頁11~19行)と判断したが、誤りである。
すなわち、本願発明の携帯可能記録媒体の読取り/書込み装置と外部制御装置とは、互いに分離独立した存在であり、本願発明はそのことを前提として、顕著な効果を奏するものである。
(1) 本願発明における携帯可能記録媒体(いわゆるICカード)の読取り/書込み装置は、カード装着部、カードの外部端子に接続されるコンタクト部、カード装着部にカードが装着されたことを検出する手段を含むカード受入れ機構、カードに供給する電源電圧発生手段、カードに供給するクロック信号発生手段、カードに供給するリセット信号出力手段等を備えており、外部制御装置に対しては、カード装着部にカードが装着されたことを検出して、検出信号を出力するとともに、外部制御装置からの信号により電源電圧発生手段及びクロック信号発生手段を制御する関係にある。
このように本願発明の読取り/書込み装置は、カードの動作に必要最小限のいわゆるハードウェア的な要素のみを備え、しかも、外部制御装置の制御の下に動作することを特徴とするものである。
(2) ICカードは、マイクロプロセッサとメモリを含むICを内蔵するカードで、従来の磁気カードに比べて大きなメモリ容量と演算機能を備え、データの読出し、書込み、消去等が可能であるとともに、情報の機密保持機能が優れているため、磁気カードに代わって、キャッシュカードやクレジットカードを始め、各種メンバーズカード、病院の診察カードなどに広く用いられており、その応用分野は拡大の一途にある。
ところで、ICカードシステムは、ICカードへの情報の書込み、読出し、消去若しくは変更又は書き込まれた情報を用いて一定の演算処理をする、いわゆる情報処理機能を備えているが、この情報の具体的な内容、あるいは処理の具体的な方法は、ICカードシステムの応用分野によって異なる。例えば、キャッシュカードシステムであれば、処理の対象である情報は、口座番号、取引記録あるいは預金残高等であるのに対して、病院の診察カードシステムであれば、病名、投薬記録、血液型あるいはアレルギー症の有無等であり、情報処理方法も、キャッシュカードシステムであれば、暗証番号の照合、残高確認、残高更新あるいは自動振込み等であるのに対し、診察カードシステムであれば、病歴の検索、アレルギー症の有無の確認や検索等である(以下、このように応用分野によって異なる内容となる情報処理機能を「個別的機能」という。)。これに対して、ICカードを読取り/書込み装置に装着し、電源電圧、クロックパルス及びリセットパルスを供給してICカードを動作可能な状態とし、さらにICカードからの初期応答データを受信する機能は、いかなる応用分野でも共通の機能である(以下、このように異なる応用分野においても共通な機能を「共通的機能」という。)。
ICカードシステムをある特定の用途に応用する場合には、ICカードの共通的機能と個別的機能の両面を実現する必要があるところ、本願発明は、共通的機能の実現を、外部制御装置の制御の下で、ハードウェアであるカードの読取り/書込み装置に分担させ、個別的機能の実現を、外部制御装置とICカードとの間の各種コマンド(命令)/レスポンス(応答)によるデータの交換、処理として、外部制御装置のコンピュータソフトウェアに分担させることにより、広範な用途に容易に対応し得るICカードシステムを提供するものである。
すなわち、コンピュータを用いた情報処理システムの分野においては、近時、特定の用途における情報処理を、専用の情報処理システムによって行う代わりに、汎用のコンピュータ、特に汎用のパーソナルコンピュータとアプリケーションソフトウェアとの組合せにより行う手法が一般的になっている。本願発明は、情報処理システムの一形態であるICカードシステムにおいて、カードの読取り/書込み装置が、共通的機能の実現に必要最小限のハードウェアである、カード受入れ機構、電源電圧発生手段、クロック信号発生手段、リセット信号出力手段を提供する結果、外部制御装置としての汎用のパーソナルコンピュータは、上記のハードウェア構成については一切考慮する必要がなく、いかなる種類のパーソナルコンピュータを用いることも可能となる。他方、個別的機能の実現は、いわゆるアプリケーションソフトウェアの設計により行うことができるため、ICカードシステムの種々の用途への適用がソフトウェアの変更のみで対応できることになる。したがって、本願発明の読取り/書込み装置を用いることにより、普及が目覚ましいパーソナルコンピュータを外部制御装置として利用することが可能となり、これによってアプリケーションソフトウェアの開発のみによって容易にICカードシステムの用途を開拓でき、ICカードシステムの多方面への適用を可能とするものである。
(3) ICカードシステムにおいて、外部制御装置とICカードとの間の情報交換のための通信プロトコルは使用するカードにより異なっているため、ICカードシステムは使用するカードの通信プロトコルに対応してその通信プロトコルを変更する必要があるところ、本願発明の読取り/書込み装置においては、通信プロトコルの設定変更は外部制御装置に分担させるため、読取り/書込み装置自体の設計変更は全く不要であり、汎用コンピュータの通信ソフトウェアの変更のみにより容易に対応することができる。
また、本願発明の読取り/書込み装置の構成は、共通的機能の実現に必要最小限のハードウェアのみにより構成されているため、小型軽量で量産性にも優れており、パーソナルコンピュータのカードスロット内にカード形態で収納することも可能である。
さらに、本願発明の読取り/書込み装置は、上記のとおり、カード装着部にカードが装着されたことを検出して、外部制御装置に検出信号を出力するとともに、外部制御装置からの信号により読取り/書込み装置の電源電圧発生手段及びクロック信号発生手段が制御されるため、外部制御装置としてパーソナルコンピュータを利用し、ICカードの処理と並行して文書作成や、給与計算等の他の処理を行わせる場合にも、安全、かつ、確実にICカードの処理を行わせることができる。
(4) このように、読取り/書込み装置と外部制御装置とを分離独立して用いることは、ICカードシステムの応用分野を拡大する等、技術面及び実用面において重要な意義を有している。本願発明は、読取り/書込み装置と外部制御装置とを分離独立して用いることを前提とし、読取り/書込み装置と外部制御装置との役割分担を具体化した点をその要旨とするものであり、これによって顕著な効果を奏するものである。
したがって、本願発明において、外部制御装置と読取り/書込み装置とが独立した装置であることが必須の要件にはなっていないとし、さらに、外部制御装置(端末装置)と読取り/書込み装置を独立した装置とするか一体とした装置とするかは単なる設計事項にすぎないものとした審決の判断は、本願発明の技術事項を誤認したものであるというべきである。
2 取消事由(一致点の認定の誤り)
審決は、本願発明と引用例発明とが、「携帯可能記録媒体制御用の制御装置に接続されるとともに携帯可能媒体の装着部およびこの媒体装着部に装着された携帯可能記録媒体の外部端子に接続されるコンタクト部を備えた携帯可能記録媒体の読取り/書込み装置において、
携帯可能記録媒体が前記媒体装着部の所定の位置に装着されたことを検出し前記制御装置に検出信号を出力する検出手段と、
携帯可能記録媒体に供給される電源電圧を発生する電圧発生手段と、
前記コンタクト部を介して携帯可能記録媒体に供給される動作クロックを発生するクロック発生手段と、
前記検出手段の出力信号に応答して制御装置から出力される信号に基づいて作動し前記電圧発生手段にて発生された電源電圧を携帯可能記録媒体に供給する第1の制御手段と、
前記制御装置から出力される信号により制御され前記電源電圧の携帯可能記録媒体への供給と共に前記クロック発生手段により発生されたクロックを前記携帯可能記録媒体へ供給する第2の制御手段と、
を有することを特徴とする携帯可能記録媒体の読取り/書込み装置。」(審決書5頁14行~6頁17行)である点で一致すると認定した。
しかしながら、このうち、本願発明と引用例発明とが、「携帯可能記録媒体制御用の制御装置に接続される・・・読取り/書込み装置」である点、「携帯可能記録媒体が前記媒体装着部の所定の位置に装着されたことを検出し前記制御装置に検出信号を出力する検出手段・・・を有する」点、「制御装置から出力される信号に基いて作動・・・する第1の制御手段・・・を有する」点、「前記制御装置から出力される信号により制御され前記電源電圧の携帯可能記録媒体への供給と共に前記クロック発生手段により発生されたクロックを前記携帯可能記録媒体へ供給する第2の制御手段・・・を有する」点でそれぞれ一致すると認定した部分は、いずれも引用例発明がそのような構成を備えるものではないので、誤りである。
(1) 審決は、引用例に「ICカード・・・のカード読取装置(本願発明の携帯可能記録媒体の読取り/書込み装置と外部装置とを合わせたものに相当する)であって、ICカードの装着部およびこの媒体装着部に装着されたICカードの外部端子に接続されるコンタクト部を備えたカード読取装置において、ICカードが前記媒体装着部の所定の位置に装着されたことを検出し、前記カード読取り装置に検出信号を出力する検出手段と、・・・前記検出手段の出力信号に応答してカード読取装置から出力される信号に基づいて作動し前記電圧発生手段にて発生された電源電圧をICカードに供給する第1の制御手段と、カード読取装置から出力される信号により制御され前記電源電圧のICカードへの供給と共に前記クロック発生手段により発生されたクロックを前記ICカードへ供給する第2の制御手段と、を有することを特徴とするカード読取装置。」(審決書4頁7行~5頁9行)が記載されているものと認定し、この認定に基づいて上記一致点の認定をしたものである。
しかしながら、引用例発明のカード読取りシステムは、読取り/書込み装置に、カードの動作に必要最小限のいわゆるハードウェア的な要素のみならず、演算等の処理を行うCPU、プログラム等を記憶するROM、データ記憶用のRAMその他が不可分に組み合わされた一体的な装置により、ICカードとのデータ交換、ICカードへの電源及びクロック信号の供給を行うものであって、上記1で述べたような、本願発明における読取り/書込み装置とは分離された外部制御装置という概念は全く開示されていない。
したがって、引用例発明のカード読取装置が、「本願発明の携帯可能記録媒体の読取り/書込み装置と外部装置とを合わせたものに相当する」とした認定自体が誤りである。
また、引用例発明においては、カード読取装置1自体が媒体装着部の所定の位置にICカードが装着されたことを検出しており、検出信号をカード読取装置1に出力するという概念は示されていない。
さらに、引用例発明においては、カード読取装置1の媒体装着部の所定の位置にICカードが装着され、カード読取装置1の接触子9b、9cがICカード10の端子10b、10cに接触すれば、直ちに電源Vcc-0VがICカード10に供給され、検出信号に応答して電源電圧をICカードに供給するものではない。したがって、引用例発明のカード読取装置1には本願発明の第1の制御手段に相当する手段は開示されていない。
のみならず、引用例発明においては、カード読取装置1の接触子9dがICカード10の端子10dに接触すれば、直ちにクロック信号出力CLKがICカード10に供給され、カード読取装置から出力される信号によりクロックの供給が制御されるものではない。したがって、引用例発明のカード読取装置1には本願発明の第2の制御手段に相当する手段も開示されていない。
この点につき、被告は、引角例の第3図に表示されたカード読取装置1のICカード10にVcc-0V(電源)を供給する回路及びCLK(クロック)を供給する回路の左側部分に、電源の供給及びクロックの供給をそれぞれ制御する手段(ゲート、スイッチ)が存在することは、当業者に容易に理解できることであると主張する。しかし、引用例の「以上のように接触子と端子が接触している状態のとき、カード読取装置1には外部より電源Vcc-0Vが供給されこの電源によってカード読取装置1の各部を駆動するとともに、接触子9b、9c、端子10b、10cを介してICカード10に供給されている。」(甲第6号証3頁右上欄16行~左下欄1行)との記載は、接触子と端子とが接触している状態であれば、ゲート、スイッチ等を介することなく電源が供給されるものと読み取れるほか、引用例第3図の当該部分の「→」の表示は通常プラグを意味する記号であり、「〓」の表示は通常ジャックを意味する記号であるから、「Vcc〓」と「→Vcc」間、「0V〓」と「→0V」間、「CLK〓」と「→CLK」間は、ゲート、スイッチ等を介することなく直接接続されることを示すものであり、図面を簡略化するため、かかる表示が用いられたものである。また、同図において、接触子9a、9g、9e、9fはPIA15又はACIA16を介してCPU12やROM13に接続されており、接触子9b、9c、9dの場合とその表示方法を区別している。したがって、被告の上記主張には根拠がない。
(2) 上記(1)のとおり、一致点の認定の前提となる引用例発明の認定が誤りである以上、審決の一致点の認定も誤っている。
すなわち、引用例に本願発明の外部制御装置という概念が開示されていないから、引用例発明のカード読取装置が「携帯可能記録媒体制御用の制御装置に接続される・・・読取り/書込み装置」である点で本願発明と一致するという認定は誤りである。そもそも引用例発明においては、「携帯可能記録媒体制御用の制御装置」がカード読取装置1のどの部分であるかが明らかではない。
また、引用例発明においては、ICカード装着の検出信号をカード読取装置1に出力するという概念は示されていないから、引用例発明が「携帯可能記録媒体が前記媒体装着部の所定の位置に装着されたことを検出し前記制御装置に検出信号を出力する検出手段・・・を有する」点で本願発明と一致するとの認定は誤りである。上記のとおり、引用例発明においては「制御装置」がカード読取装置1のどの部分であるかが明らかではない。
さらに、引用例発明においては、本願発明の第1の制御手段及び第2の制御手段にそれぞれ相当する手段の開示がないから、本願発明と引用例発明とが「制御装置から出力される信号に基いて作動・・・する第1の制御手段・・・を有する」点及び「前記制御装置から出力される信号により制御され前記電源電圧の携帯可能記録媒体への供給と共に前記クロック発生手段により発生されたクロックを前記携帯可能記録媒体へ供給する第2の制御手段・・・を有する」点でそれぞれ一致するとした認定も誤りである。
第4 被告の反論の要点
審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
1 審決が本願発明の技術事項を誤認したとの主張について
原告は、審決が、本願発明において「特許請求の範囲に記載の本願発明の読取り/書込み装置は外部制御装置に『接続される』と記載されているだけであって、外部制御装置と読取り/書込み装置が独立した装置であることが必須の要件にはなっていない」と認定したことが誤りであるとし、本願発明の携帯可能記録媒体の読取り/書込み装置と外部制御装置とは、互いに分離独立した存在であると主張する。
しかし、本願発明において「外部制御装置」とは、「読取り/書込み装置」からみて、その外側に設けられた装置を意味する概念であり、本願発明の要旨の「外部制御装置に接続される・・・読取り/書込み装置」という技術的な限定は、読取り/書込み装置が、該読取り/書込み装置によつて読取り又は書込みがされる携帯可能記録媒体の制御用の外部装置に接続されているという当然のことを表現したものと解されるので、審決は、これに従って上記のとおり認定したものであり、本願発明における携帯可能記録媒体の読取り/書込み装置と外部制御装置とが一体であるとも、互いに分離独立した存在であるとも認定してはいない。そして、本願発明を、携帯可能記録媒体の読取り/書込み装置と外部制御装置とが互いに分離独立した存在であると認定しなければならない技術的な必然性は認められないから、審決の上記認定に誤りはない。
また、原告は、審決がかっこ書きで「なお、外部制御装置(端末装置)と読取り/書込み装置を独立した装置とするか一体とした装置とするかは単なる設計事項にすぎないものと認める。」と認定したことも誤りであると主張するが、上記のとおり、本願発明が外部制御装置と読取り/書込み装置とを分離独立させることを発明の要旨とするものとは認められないのみならず、たとえ、本願発明の外部制御装置と読取り/書込み装置とが分離独立したものであったとしても、ICカード読取り/書込み装置と制御装置とを分離独立した装置として構成することは、特開昭60-207961号公報(乙第1号証)、特開昭60-207986号公報(乙第2号証)に見られるように、本願出願前に周知であるので、この点は当業者が適宜なし得る設計事項にすぎないものである。したがって、審決の上記認定にも誤りはない。
なお、原告は、本願発明が、共通的機能の実現を外部制御装置の制御の下でカードの読取り/書込み装置に分担させ、個別的機能の実現を外部制御装置のコンピュータソフトウェアに分担させることにより、アプリケーションソフトウェアの開発のみによってICカードシステムの多方面への適用を可能とし、また、通信プロトコルの設定変更は、これを外部制御装置に分担させるため、汎用コンピュータの通信ソフトウェアの変更のみにより容易に対応することができ、外部制御装置としてのパーソナルコンピュータにICカードの処理と並行して他の処理を行わせる場合にも、安全、かつ、確実にICカードの処理を行わせることができる等と主張するが、かかる主張は、本願発明の要旨に基づくものではないのみならず、本願明細書及び図面中にも上記主張の基礎となる開示は何らなされていないものであるから、失当である。
2 取消事由(一致点の認定の誤り)について
原告は、審決がかっこ書きで「引用例には、本願発明の携帯可能記録媒体の読取り/書込み装置と外部装置とを合わせたものに相当するカード読取装置が記載されている」と認定したことが誤りであり、引用例には本願発明の外部制御装置という概念が開示されていないから、引用例発明のカード読取装置が「携帯可能記録媒体制御用の制御装置に接続される・・・読取り/書込み装置」である点で本願発明と一致するという認定は誤りであると主張する。しかし、該かっこ書きの記載の趣旨は、引用例発明のカード読取装置が、本願発明との対応関係としてはどの部分に相当するかを示したものであり、かつ、原告の主張するように、引用例発明のカード読取りシステムが、読取り/書込み装置に、カードの動作に必要最小限のいわゆるハードウェア的な要素のみならず、演算等の処理を行うCPU、プログラム等を記憶するROM、データ記憶用のRAMその他が不可分に組み合わされた一体型の装置により、ICカードとのデータ交換、ICカードへの電源及びクロック信号の供給を行うものと認定したものであり、該認定は誤りではない。また、引用例発明においても、携帯可能記録媒体の読取り/書込み装置が携帯可能記録媒体制御用の制御装置に接続されていることは明らかであるから、審決の一致点の認定に主張の誤りはない。
原告は、引用例発明においては、カード読取装置1自体が媒体装着部の所定の位置にICカードが装着されたことを検出しており、検出信号をカード読取装置1に出力するという概念は示されていないから、引用例発明が「携帯可能記録媒体が前記媒体装着部の所定の位置に装着されたことを検出し前記制御装置に検出信号を出力する検出手段・・・を有する」点で本願発明と一致するとの認定は誤りであると主張するが、引用例発明には、検出信号をカード読取装置に出力することが記載されており、審決の一致点の認定に主張の誤りはない。
また、原告は、引用例発明においては、カード読取装置1の媒体装着部の所定の位置にICカードが装着され、カード読取装置1の接触子9b、9cがICカード10の端子10b、10cに接触すれば、直ちに電源Vcc-0VがICカード10に供給されるもので、検出信号に応答して電源電圧をICカードに供給するものではないから、引用例発明には本願発明の第1の制御手段に相当する手段は開示されておらず、引用例発明が「制御装置から出力される信号に基いて作動・・・する第1の制御手段・・・を有する」点で本願発明と一致するとの認定は誤りであると主張し、さらに、引用例発明においては、カード読取装置1の接触子9dがICカード10の端子10dに接触すれば、直ちにクロック信号出力CLKがICカード10に供給されるもので、カード読取装置から出力される信号によりクロックの供給が制御されるものではなく、引用例発明のカード読取装置1には本願発明の第2の制御手段に相当する手段が開示されていないから、引用例発明が「前記制御装置から出力される信号により制御され前記電源電圧の携帯可能記録媒体への供給と共に前記クロック発生手段により発生されたクロックを前記携帯可能記録媒体へ供給する第2の制御手段・・・を有する」点で本願発明と一致するとの認定は誤りであると主張する。
しかし、引用例の「インターフェイス15はその接触子9a、9g・・・のレベルをCPU12に送り、CPU12はそのレベルが短絡状態であることを検出したとき、挿入されたカードがICカードであることを判断する。」(甲第6号証3頁右上欄11~16行)、「n27で接触子9a、9gの短絡を判断すると接触子9b、9c、9d、IC端子10b、10c、10dを介して電源、クロック信号をICカードに供給する(n29)とともに、」(同4頁右下欄4~7行)との各記載及び第4図(A)の動作フローにおけるn27、n28の記載に照らして、引用例発明においては、電源及びクロックの供給を常時行っているのではなく、接触子9a、9gが短絡したという判断の後に、すなわち、ICカードが挿入されたという事象を判断し、その判断に基づいて電源及びクロックの供給を行っているのであり、そのためには、当然、PIA15、CPU12の信号に基づいて、電源の供給及びクロックの供給につき、それぞれ必要な制御を行う制御手段(ゲート、スイッチ)が存在しているものと認められ、審決は、この各制御手段を本願発明との対比のために「第1の制御手段」、「第2の制御手段」と称したものである。なお、引用例の第3図においては、カード読取装置1のICカード10にVcc-0V(電源)を供給する回路及びCLK(クロック)を供給する回路の左半分の表示が省略されているために、かかる制御手段が明記されてはいないが、引用例の「以上のように接触子と端子が接触している状態のとき、カード読取装置1には外部より電源Vcc-0Vが供給されこの電源によってカード読取装置1の各部を駆動するとともに、接触子9b、9c、端子10b、10cを介してICカード10に供給されている。前記クロックの信号出力はカード読取装置1のCPU12に供給されるとともに接触子9d、端子10dを介してICカード10のCPU20にも供給されている。」(甲第6号証3頁右上欄16行~左下欄5行)との記載及び第4図(A)の動作フローにおけるn29の「ICカードにVcc、0V、CLKを供給する」との記載から、電源の供給及びクロックの供給をそれぞれ制御する手段(ゲート、スイッチ)が存在することは、当業者に容易に理解できることである。したがって、審決の一致点の認定に主張の誤りはない。
第5 当裁判所の判断
1 審決が本願発明の技術事項を誤認したとの主張について本願発明の要旨は前示のとおりであって、これによれば
本願発明の携帯可能記録媒体の読取り/書込み装置が外部制御装置から分離独立していることが、本願発明の要件として直接的に規定されているものでないことは明らかであり、また、その外部制御装置の規定が、読取り/書込み装置から見てその外側に設けられた制御装置という以上の内容を含むものと解することはできないから、本願発明の「外部制御装置に接続される・・・読取り/書込み装置」との構成から、直ちに、読取り/書込み装置が外部制御装置から分離独立していることを導くことができるというものでもない。
この点につき、原告は、本願発明が、携帯可能記録媒体の読取り/書込み装置と外部制御装置とが互いに分離独立した存在であることを前提とし、共通的機能の実現を外部制御装置の制御の下でカードの読取り/書込み装置に分担させ、個別的機能の実現を外部制御装置のコンピュータソフトウェアに分担させることにより、アプリケーションソフトウェアの開発のみによってICカードシステムの多方面への適用を可能とし、通信プロトコルの設定変更に対し、汎用コンピュータの通信ソフトウェアの変更のみによって容易に対応することができ、外部制御装置としてのパーソナルコンピュータにICカードの処理と並行して他の処理を行わせる場合にも、安全、かつ、確実にICカードの処理を行わせることができる等の顕著な効果を奏すると主張するが、そのような効果を奏することは、昭和61年11月19日付、平成6年7月29日付及び平成7年3月17日付各手続補正書(甲第3~5号証)による補正後の本願明細書(甲第2号証)に何ら記載されておらず、これに基づいて本願発明の要件を認定することができないことはいうまでもない。
したがって、審決が、本願発明において「特許請求の範囲に記載の本願発明の読取り/書込み装置は外部制御装置に『接続される』と記載されているだけであって、外部制御装置と読取り/書込み装置が独立した装置であることが必須の要件にはなっていない」、「外部制御装置(端末装置)と読取り/書込み装置を独立した装置とするか一体とした装置とするかは単なる設計事項にすぎない」と認定したことに誤りはない。
2 取消事由(一致点の認定の誤り)について
(1) 引用例(甲第6号証)には、「磁気ストライプをその表面に有する磁気カード又は、CPU、メモリ等を構成するICを内蔵しその表面に前記ICの端子を有するICカードを受け入れ、・・・その受け入れたカードがICカードの場合は前記端子と接触する接触子を介してそのカードとデータの送受を行うカード読取装置を有するカード読取システムであって、前記ICカードの表面に互いに短絡された2個の短絡端子を設けるとともに、前記カード読取装置に、その接触子がICカード上のIC端子に接触している時前記短絡端子に接触する短絡検知接触子と、このカード読取装置にカードが挿入された際にこの短絡検知接触子の短絡の有無を検知し、短絡を検知した時前記挿入されたカードがICカードであると判定・・・するカード検知手段と、を備えることを特徴とするカード読取システム。」(同号証特許請求の範囲)が記載され、その実施例につき、「搬送路Aの始端と終端にはそれぞれ挿入口1aと本体出口1bがあり搬送路A上挿入口1a、本体出口1bに近接する位置にカード挿入検知センサ2、カード放出検知センサ8が設置されている。このカード挿入検知センサ2、カード放出検知センサ8は投光部と受光部を有する光学センサでありカード等によって光を遮断されたときオンする。」(同2頁左下欄1~8行)、「搬送路Aに沿って・・・ICカード読取のための接触子9が配設されている。・・・ICカード読取のための接触子9の取りつけ個数及び位置はICカードのIC端子の個数・・・に後述する短絡端子を加えた個数及び通過位置と一致しており、それぞれの接触子9a~9gとICカードの端子10a~10g・・・は同時に接触する。」(同頁左下欄末行~右上欄9行)、「第3図は本実施例におけるカード読取装置の要部及びICカードのブロック図である。カード読取装置1は演算等の処理を行うCPU12、プログラム等を記憶するROM13、データ記憶用のRAM14、接触子9aと接触子9gに接続されるインターフェイス15(ペリフェラル インターフェイスアダプタ)、直並列変換を行いICカードとデータの送受を行うインターフェイス16(アシンクロナスコミュニケーション インターフェイスアダプタ)、クロック17、・・・及びICカードの端子10a~10gと接触する接触子9a~9gで構成されている。」(同3頁左上欄6~19行)、「接触子9a、9gはICカード10内で短絡されている短絡端子10a、10gに接触したとき短絡する。インターフェイス15はその接触子9a、9g・・・のレベルをCPU12に送り、CPU12はそのレベルが短絡状態であることを検出したとき、挿入されたカードがICカードであることを判断する。以上のように接触子と端子が接触している状態のとき、カード読取装置1には外部より電源Vcc-0Vが供給されこの電源によってカード読取装置1の各部を駆動するとともに、接触子9b、9c、端子10b、10cを介してICカード10に供給されている。前記クロックの信号出力はカード読取装置1のCPU12に供給きれるとともに接触子9d、端子10dを介してICカード10のCPU20にも供給されている。」(同頁右上欄9行~左下欄5行)、「第4図は上記実施例の動作を示すフローチャートである。ステップn1・・・ではカードの挿入があるまで待機し、カードの挿入があったことをカード挿入検知センサ2がオンすることによって判断すればn2に進む。n2では挿入許可ソレノイド3をオンしてカードの搬送路を開く。n3では駆動モータ4を正転して挿入されたカードを搬送する。n4では短絡検知接触子9a、9gの短絡の有無を判断し、短絡していればn26以下のICカード処理動作に移り、」(同頁右下欄5~15行)、「ICカードの処理動作を説明する。n4で短絡検知接触子9a、9gの短絡を判断すると即座に駆動モータ4の正転を停止する(n26)。これは短絡検知接触子9a、9gがICカードの短絡端子10a、10gによって短絡される位置が、他の接触子9b~9fとIC端子10a~10f(注、「10a~10f」は「10b~10f」の誤記と認められる。)とが正確に接触するICカード停止位置であることからカードをその位置に停止させるためである。n26で駆動モータ4を停止してもカードは前記ICカード停止位置を多少行き過ぎることがある。そこで、n27では再び短絡検知接触子9a、9gの短絡の有無を判断し短絡していなければ駆動モータ4を微少時間(1/100秒程度)逆転する(n28)。n27で接触子9a、9gの短絡を判断するまでこのn28の動作を繰り返す。」(4頁左下欄9行~右下欄4行)、「n27で接触子9a、9gの短絡を判断すると接触子9b、9c、9d、IC端子10b、10c、10dを介して電源、クロック信号をICカードに供給する(n29)とともに、双方のインターフェイス16、19を作動させた(n30)後、カード読取装置とICカードとの間でデータの読み取り、書込み等の処理が行われる(n31)。」(同頁右下欄4~10行)との各記載がある。
(2) 引用例の前示各記載にその図面第1図、第3図及び第4図(A)を併せ考えると、次のように認めることができる。
(ア) 引用例発明は、CPU、メモリ等を構成するICを内蔵してその表面にIC端子を有するICカードを受け入れ、その受け入れたカードがICカードの場合は前記端子と接触する接触子を介してそのカードとテータの送受を行うカード読取装置であり、かつ、ICカード読取のための接触子9が配設されており、その取付個数及び位置はICカードのIC端子の個数に短絡端子を加えた個数及び通過位置と一致し、それぞれの接触子9a~9gとICカードの端子10a~10gは同時に接触するものである。そうすると、引用例発明のこの部分の構成は、本願発明の「携帯可能媒体の装着部およびこの媒体装着部に装着された携帯可能記録媒体の外部端子に接続されるコンタクト部を備えた携帯可能記録媒体の読取り/書込み装置」の構成に相当するものと認められる。
また、引用例発明は、CPU12、ROM13等を備えており、CPU12は、インターフェイスや、引用例(甲第6号証)に明示の記載はないものの、バス線(信号線)によって、後記のとおりICカード装着の検出手段と認められるカード挿入検知センサ2及び接触子9a、9gや、電源、クロックの制御手段等と信号の送受をしているものと認められる。そして、後記のとおり、このCPU12が本願発明の読取り/書込み装置における外部制御装置に相当するものと認められるところ、本願発明の要旨において、読取り/書込み装置が外部制御装置から分離独立していることが、本願発明の要件として直接的に規定されているものではなく、外部制御装置が読取り/書込み装置から見てその外側に設けられた制御装置という以上の内容を含むものではないことは前示のとおりであるから、本願発明の「携帯可能記録媒体制御用の外部制御装置に接続される・・・携帯可能記録媒体の読取り/書込み装置」の構成も引用例に開示されているものと認めることができる。
原告は、引用例に本願発明の外部制御装置という概念が開示されていないから、引用例発明のカード読取装置が「携帯可能記録媒体制御用の制御装置に接続される・・・読取り/書込み装置」である点で本願発明と一致するという審決の認定は誤りであるとか、引用例発明においては「携帯可能記録媒体制御用の制御装置」がカード読取装置1のどの部分であるかが明らかではないと主張するが、以上のとおりであるから、その主張は採用し難く、引用例発明が「携帯可能記録媒体制御用の外部制御装置に接続されるとともに携帯可能媒体の装着部およびこの媒体装着部に装着された携帯可能記録媒体の外部端子に接続されるコンタクト部を備えた携帯可能記録媒体の読取り/書込み装置」である点で本願発明と一致するとした審決の認定に誤りはない。
(イ) 引用例発明においては、挿入口1aに近接する位置にカード挿入検知センサ2が設置され、ICカードの挿入があったことをカード挿入検知センサ2がオンすることによって判断すると(引用例(甲第6号証)に、判断する主体についての明示の記載はないが、その図面第3図を参酌するとCPU12がカード挿入検知センサ2からの出力信号を受けて判断するものと解される。)、カードの搬送路を開き、駆動モータ4を正転してカードを搬送し、これによって接触子9a、9gがICカードの短絡端子10a、10gに接触すると、接触子9a、9gが短絡する。他方、インターフェイス(PIA15)が接触子9a、9gのレベルをCPU12に送っており、CPU12はそのレベルが短絡状態であることを検出したとき、挿入されたカードがICカードであることを判断するものである。そうすると、引用例発明の信号出力を含むカード挿入検知センサ2の動作及びレベル出力を含む接触子9a、9gの動作に係る構成が、本願発明の「携帯可能記録媒体が前記媒体装着部の所定の位置に装着されたことを検出し・・・検出信号を出力する検出手段」の構成に相当し、カード挿入検知センサ2及び接触子9a、9gからの各信号出力を受けるCPU12が、本願発明における検出信号を受ける「外部装置」(外部制御装置)に相当するものと認められる。
原告は、引用例発明においてはICカード装着の検出信号をカード読取装置1に出力するという概念は示されていないから、引用例発明が「携帯可能記録媒体が前記媒体装着部の所定の位置に装着されたことを検出し前記制御装置に検出信号を出力する検出手段・・・を有する」点で本願発明と一致するとの審決の認定は誤りであると主張し、また、引用例発明においては「制御装置」がカード読取装置1のどの部分であるかが明らかではないと主張するが、以上のとおりであるから、その主張は採用し難く、審決の該認定に誤りはない。
(ウ) 引用例発明は、前示(イ)のとおり、接触子9a、9gがICカードの短絡端子10a、10gに接触して短絡し、CPU12が接触子9a、9gのレベル出力が短絡状態であることを検出したとき、挿入されたカードがICカードであることを判断するところ、これに引き続いて、再度接触子9a、99の短絡の有無を判断し、短絡したものと判断されると、カード読取装置から、接触子9b、9c、9d及びIC端子10b、10c、10dを介して、電源及びクロック信号がICカードに供給されるものである。引用例(甲第6号証)に、このような動作を行う構成についての明示の記載はないが、引用例発明において、接触子9a、9gが短絡しているかどうかという条件によって、電源及びクロック信号をICカードに供給するかどうかが制御されていることが明らかであるから、電源の供給、クロックの供給のいずれについても、カード読取装置に、ICカードへの導通、非導通を切り換える制御手段(ゲート、スイッチ)が存在するものと考えざるを得ず、また、接触子9a、9gのレベルが短絡状態であることを検出するのがCPU12であることからみて、該各制御手段による電源、クロックの供給の制御は、外部制御装置に相当するCPU12が接触子9a、9gの短絡を判断して各制御手段に出力する信号に基づいてなされているものと認めることができる。そうすると、引用例発明は、本願発明の「検出手段の出力信号に応答して外部制御装置から出力される信号に基づいて作動し前記電圧発生手段にて発生された電源電圧を携帯可能記録媒体に供給する第1の制御手段」及び「外部制御装置から出力される信号により制御され・・・クロック発生手段により発生されたクロックを前記携帯可能記録媒体へ供給する第2の制御手段」に相当する各制御手段を有するものと認められる。
原告は、「→」の表示は通常プラグを意味する記号であり、「〓」の表示は通常ジャックを意味する記号であるから、引用例の第3図の「Vcc〓」と「→Vcc」間、「0V〓」と「→0V」間、「CLK〓」と「→CLK」間は、ゲート、スイッチ等を介することなく直接接続されることが示されていると主張し、また、同図において、接触子9a、9g、9e、9fはPIA15又はACIA16を介してCPU12やROM13に接続されており、接触子9b、9c、9dの場合とその表示方法を区別していると主張するが、前示のように、引用例に記載されたカード読取装置の動作に照らして、引用例発明には電源及びクロックの供給を制御する制御手段が存在するものと考えざるを得ないのであり、かかる制御手段は、仮に、引用例第3図の「Vcc〓」と「→Vcc」間、「0V〓」と「→0V」間、「CLK〓」と「→CLK」間には位置しないとしても、被告主張に係る「Vcc〓」、「0V〓」、「CLK〓」の左側部分等、他の位置に存在し、その図面表示が省略されているにすぎないものというべきである。
したがって、本願発明と引用例発明とが「前記検出手段の出力信号に応答して制御装置から出力される信号に基づいて作動し前記電圧発生手段にて発生された電源電圧を携帯可能記録媒体に供給する第1の制御手段・・・を有する」点及び「前記制御装置から出力される信号により制御され前記電源電圧の携帯可能記録媒体への供給と共に前記クロック発生手段により発生されたクロックを前記携帯可能記録媒体へ供給する第2の制御手段・・・を有する」点でそれぞれ一致するとした審決の認定に誤りはない。
(3) そうすると、審決のした本願発明と引用例発明との一致点の認定に原告主張の誤りはない。
3 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)
平成7年審判第2583号
審決
神奈川県川崎市幸区堀川町72番地
請求人 株式会社東芝
東京都港区芝浦1丁目1番1号 株式会社東芝 本社事務所内
代理人弁理士 則近憲佑
東京都港区芝浦1丁目1番1号 株式会社東芝 本社事務所内
代理人弁理士 山下一
昭和61年特許願第71064号「携帯可能記録媒体の読取り/書込み装置」拒絶査定に対する審判事件(昭和62年10月8日出願公開、特開昭62-229491)について、次のとおり審決する。
結論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
(手続きの経緯・本願発明の要旨)
本願は、昭和61年3月31日の出願であつて、その発明の要旨は、昭和61年11月19日、平成6年7月29日及び平成7年3月17日付けの手続補正書により補正された明細書と図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認ある。
「携帯可能記録媒体制御用の外部制御装置に接続されるとともに携帯可能媒体の装着部およびこの媒体装着部に装着された携帯可能記録媒体の外部端子に接続されるコンタクト部を備えた携帯可能記録媒体の読取り/書込み装置において、
携帯可能記録媒体が前記媒体装着部の所定の位置に装着されたことを検出し前記外部装置に検出信号を出力する検出手段と、
携帯可能記録媒体に供給される電源電圧を発生する電圧発生手段と、
前記コンタクト部を介して携帯可能記録媒体に供給される動作クロックを発生するクロック発生手段と、
前記検出手段の出力信号に応答して外部制御装置から出力される信号に基づいて作動し前記電圧発生手段にて発生された電源電圧を携帯可能記録媒体に供給する第1の制御手段と、
この第1の制御手段により電源電圧を携帯可能記録媒体に供給した後に外部制御装置から出力される信号により制御され前記電源電圧の携帯可能記録媒体への供給に続いて前記クロック発生手段により発生されたクロックを前記携帯可能記録媒体へ供給する第2の制御手段と、
この第2の制御手段によるクロックの供給開始の後に前記携帯可能記録媒体をリセットするリセット信号を出力するリセット信号出力手段と、
前記電圧発生手段にて発生されて携帯可能記録媒体に供給されている電源電圧を監視する監視手段と、
この監視手段の監視出力によりリセット信号出力手段から出力されるリセット信号のICカードへの供給を制御する第3の制御手段とを有することを特徴とする携帯可能記録媒体の読取り/書込み装置。」
(引用例)
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭61-20185号公報(以下、引用例という)には、
「ICカード(本願発明の携帯可能記録媒体に相当する)のカード読取装置(本願発明の携帯可能記録媒体の読取り/書込み装置と外部装置とを合わせたものに相当する)であって、ICカードの装着部およびこの媒体装着部に装着されたICカードの外部端子に接続されるコンタクト部を備えたカード読取装置において、
ICカードが前記媒体装着部の所定の位置に装着されたことを検出し、前記カード読取り装置に検出信号を出力する検出手段と、
ICカードに供給される電源電圧を発生する電圧発生手段と、
前記コンタクト部を介してICカードに供給される動作クロックを発生するクロック発生手段と、 前記検出手段の出力信号に応答してカード読取装置から出力される信号に基づいて作動し前記電圧発生手段にて発生された電源電圧をICカードに供給する第1の制御手段と、
カード読取装置から出力される信号により制御され前記電源電圧のICカードへの供給と共に前記クロック発生手段により発生されたクロックを前記ICカードへ供給する第2の制御手段と、を有することを特徴とするカード読取装置。」が記載されている。
(対比)
そこで本願発明と引用例に記載のものとを対比すると、両者は、
「携帯可能記録媒体制御用の制御装置に接続されるとともに携帯可能媒体の装着部およびこの媒体装着部に装着された携帯可能記録媒体の外部端子に接続されるコンタクト部を備えた携帯可能記録媒体の読取り/書込み装置において、
携帯可能記録媒体が前記媒体装着部の所定の位置に装着されたことを検出し前記制御装置に検出信号を出力する検出手段と、
携帯可能記録媒体に供給される電源電圧を発生する電圧発生手段と、
前記コンタクト部を介して携帯可能記録媒体に供給される動作クロックを発生するクロック発生手段と、
前記検出手段の出力信号に応答して制御装置から出力される信号に基づいて作動し前記電圧発生手段にて発生された電源電圧を携帯可能記録媒体に供給する第1の制御手段と、
前記制御装置から出力される信号により制御され前記電源電圧の携帯可能記録媒体への供給と共に前記クロック発生手段により発生されたクロックを前記携帯可能記録媒体へ供給する第2の制御手段と、
を有することを特徴とする携帯可能記録媒体の読取り/書込み装置。」
である点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点)
a、本願発明においては、携帯可能記録媒体をリセットするリセット信号発生装置が設けられていると共に、該リセット信号をICカード(携帯可能記録媒体)に供給するに際して、電源電圧を監視する手段の監視出力を用いているのに対して、引用例に記載のものには、リセット信号の供給については明記されていない点。
b、本願発明では、携帯可能記録媒体に電源電圧、クロック信号及びリセット信号を供給する順序が電源電圧、クロック信号及びリセット信号の順であることが特定されているのに対して、引用例に記載のものでは、電源電圧の供給とクロック信号の供給の順序が明記されていない点。
(当審の判断)
・相違点aに対して、
CPUを搭載する電子機器に電源電圧を供給する際にシステムを初期化するためのリセット信号を供給するものにおいて、該リセット信号の供給を電源電圧を監視して電源電圧が所定値以上になった時(電圧が確立した時)にリセット信号を供給することは本願出願前に周知である。(この点必要ならば、実開昭60-192025号公報、実開昭60-174939号公報及び特開昭60-171519号公報参照)
・相違点bに対して、
CPUを搭載した電子機器に対する電源電圧の供給とリセット信号の供給との時間的な関係は上記相違点aに対する判断の項において述べた如く電源電圧が確立した後に行うことが周知であると共に、リセット信号の供給とクロック信号の供給の時間的な関係はクロック信号の供給がリセット動作に必要であるので、本願発明の如く、電源電圧、クロック信号及びリセット信号の順に供給することに格別の発明力を要するものとは認められない。
なお、審判請求人は、審判請求理由補充書中において、本願発明は、「携帯可能記録媒体が所定の位置に装着されたことを検出した外部装置に検出信号を出力する検出手段及びこの検出手段の出力信号に基づいて外部制御装置から出力される信号により制御されて電源電圧を携帯可能記録媒体に供給する第1の制御手段」を設けることにより、携帯可能記録媒体の読取り/書込み装置の判断により電源を供給するのではなく、携帯可能記録媒体の読取り/書込みが必要な場合にのみ外部制御装置からの制御により電源を供給することが可能となり、不必要に電源を供給することが無い。」旨主張しているが、明細書及び第6図に記載のものは、「カード検出信号CDINを受けた外部制御部から読取り/書込み装置20に、制御用の2値信号VccON、CLKEN、及びRSTの各信号が順次送られる。」と記載されているだけで、本願明細書及び図面に開示されているものは、審判請求人が主張する如く外部制御装置がカード検出信号を受けた場合に携帯可能記録媒体の読取り/書込みが必要か否かの判断を行って必要な場合にのみ電源を供給するものとは認められない。(引用例に記載のものは、ICカードを挿入するのはICカードの読取り/書込みが必要な場合に行うものであるから、ICカードの挿入に応じて自動的に電源の供給を行うものであって、本願発明の明細書及び図面の開示及び特許請求の範囲の記載の「検出手段の出力信号に応答して外部制御装置から出力される」は、引用例に記載のものと同じ様に、カードの挿入を検出すると自動的に電源の供給が行われるものと認められるので、審判請求人のこの点の主張は採用できない。)
また、審判請求人は、本願発明のものは、外部制御装置(端末装置)から独立した携帯可能記録媒体の読取り/書込み装置である旨主張しているが、特許請求の範囲に記載の本願発明の読取り/書込み装置は外部制御装置に「接続される」と記載されているだけであって、外部制御装置と読取り/書込み装置が独立した装置であることが必須の要件にはなっていないので、この点に関する審判請求人の主張は採用できない。(なお、外部制御装置(端末装置)と読取り/書込み装置を独立した装置とするか一体とした装置とするかは単なる設計事項にすぎないものと認める。)
(むすび)
以上のとおりであるので、本願発明は引用例に記載の事項及び本願出願前に周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
平成8年7月3日
審判長 特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)